続・人の気持ちが分からない

 「A君が髪の毛切った事、イジるの良くないと思うよ。」

と、友達から急に言われた。イジるってなんだ。僕はただ単純にタモリさんのモノマネがしたかっただけなんだが…。

 

 『髪切った??』

物心ついた時から今まで、色々な人が真似をするほどタモリさんが話題に困って、散髪したかどうか尋ねている場面をTVで見た記憶は実際には少ない。少ないにも関わらず今でもやっぱりタモリさんのモノマネと言えば『髪切った??』であり、『続いてはKinKi Kidsです。』でもないし電車の空気弁のモノマネのモノマネではない。

 

 「君って人の気持ち分からないよね。」

と、友人は続けた。何を言っているんだコイツは…。人の気持ちが分からなくて悩んでいる人に向かってド直球で人の気持ちが分からないよねとは…貴様が一番人の気持ちが分かってないわ!!

 

 しかしタモリさんが『髪切った??』とあまり言わないにもかかわらず『タモリ=髪切った??』のイメージが定着していると言う事は、事実と人々のイメージが必ずしも一致しないと言う事だ。だから僕がただタモリのモノマネをしているだけでも、傍から見ればA君の事をイジり倒して馬鹿にしているように見えるのかもしれない。

 

 と言うか、普通の人からすればそんな事あたり前な気がする。そんな事にも気が付く事の出来ない僕へストレートに人の気持ちが分からないよねって優しく諭してくれた友人は滅茶苦茶人の気持ちが分かるのではないだろうか…さっきはごめんなさい。いや、まじごめんて。

 

「A君も絶対気にしてるからさ。やめなよ。」

友達は最後にそう言ってトイレの中に消えていった。急いでいる様子だったな。うんこだろうか??いや、そんな事はどうでも良いのだ。どうしよう。無意識にA君の事を傷つけていたらどうしよう。人の気持ちが滅茶苦茶分かる友達が言うのだから確かにA君は傷ついているのだろう。そしてそれを遠慮して言えていないだけかもしれない。そんな事を授業中に考えていたらいつの間にか寝てしまって、目が覚めたら授業が終わる15分前だった。

 

 12時。昔だったら笑っていいとも!が始まる時間だ。お昼休みはウキウキウォッチング。僕は今までの人生の大部分を学生として過ごしてきているから昼休みにTVを見られる環境でない事が殆どだった。だから、いいとも!を見ることが出来たのは小中高の長期休暇中か大学の授業が無い平日かのどちらかだった。でも僕がTVを見ていない昼休みもタモリさんはずっとTVに出続け、僕が見ていないところで『髪切った??』と連呼していたかもしれない。タモリさんが『髪切った??』とあまり言わないという事自体が僕が勝手に決めつけたタモリさんのイメージだったのかもしれない。

 

 もう何が事実で何がイメージか分からなくなった僕はA君に謝る事にした。

「A君、最近髪の毛切った事をイジってごめんよ…。」

A君は驚いていた。何を言っているんだこいつは??みたいな目で見てきた。何なら「は??」って言っていたかもしれない。

「いや、別に気にしてないし良いよ。」

A君の心は広かった。そして気にしていなかった。ありがとう。そしてあの友達は何を言っていたのだろうか。やっぱりあいつも人の気持ちが分からないだけなんじゃないのか??そう思うとなんだか真剣に謝ったのが少し恥ずかしくなって少し急ぎ気味にトイレに逃げ込んだ。

 

 あ、うんこだと思われたらどうしよう。